移植医療、日経新聞より(久しぶりのブログ・アップ)

久しぶりにブログを更新します。本日の日経新聞に移植医療のコラムが載っていました。なかなか考えるところがあったのでメモ。

 心臓外科医の南淵明宏さんは、年間200件の心臓手術を手がける日本でも指折りのスペシャリストだ。すご腕ぶりは、飼っている猫が眠っているすきに、そのひげを手術用の糸に見立てて結んでしまうエピソードからも伺える。

30歳の時、武者修行に出かけたオーストラリアで、心臓移植にかかわった。事故死した若者から心臓を取り出して手に持つと、とてつもなく重く感じたという。容器に収めようとすると、強い力で元あった場所に引き戻されそうな気がした。臓器移植は、科学や合理性だけでは割り切れないものなのかもしれない。

日本では1968年に札幌医大で行われた心臓移植について、移植の必要性など様々な疑念が指摘された。移植医療は中断し、脳死移植が再開するまでに30年もの歳月が費やされた。定着したように思える現在でも、臓器を提供する人や家族の思い、医療関係者らの努力の上にようやく成り立っている現状である。

東京の医師が自分に委嘱する肝臓の提供者を探すため、暴力団関係者らに多額の現金を払ったとされる臓器売買事件が明るみに出た。優先的に提供を受けられる親族間の移植を装い、偽の養子縁組までしていた。移植医療の「善意」を信じて臓器提供を待つ、多くの人たちの願いを踏みにじる行為というほかない。 (2011年6月30日 日本経済新聞 1面 春秋)