Aug, 15 連載小説?(不定期)

お盆なので、いつも引きこもっている某所へ入ることができず、部屋でぼーっとしている。頭もぼーっ。

さて、下のようなものを延々と書いて、はたして面白くなるかはわからないけど案ずるより産むが易し Let's start!!

〜〜〜連載小説:「雛罌粟・・・1.結婚招待状」〜〜〜

「私たち結婚することにしました」
少し遅めに出勤した美智子が、自分の席に座り、パソコンのメールを開くと、味も素っ気もない仕事のやり取りの中に不釣合いな、そんなメールを見つけた。もう何年も直接会っていない、大学時代の親しい友人からのメールだった。
「・・・え、久しぶりだな、真紀ちゃん結婚するのか・・・。」
前に座っている、まだ愛らしさが残る後輩に悟られないよう、無表情のまま美智子は頭の中でつぶやいた。真紀とはもう随分会っていない。何年か前に彼女が留学する準備をしている時、四谷にある小さな洋食屋で、彼女の「夢」を山ほど聞かされ、ワインを飲みすぎ、最後は二人ともなぜか笑いがとまらなくなった。あの時以来である。その後、何年かして留学を無事におえ、東京で働いていると知らせがあった。だが最近は、お互いの忙しさの中で、たまに挨拶程度のメールを交わすにとどまっていた。

そういえば、彼女、よくもてていた。

正統派の美人というわけではないが、明るい人柄に魅かれる男友達も多かった。そんな彼女が、いわゆる適齢期での結婚を選んだ事は、むしろ他者の希望に常に応え続けてきた彼女らしい選択でもあり、何も不思議なことではなかった。
 メールを開くと、真紀らしく、和文と英文両方で、大学院時代にお付き合いをしていた彼と婚約をしたこと、国際結婚のため昨年末に仕事を辞め現在はNYにいることなどが綴られ、彼との写真が添付してあった。それを読んで美智子はなぜか、ほっとしていた。

「よかったな」

 美智子自身は、真紀よりも年上で、もうよい年齢だったが、自分はさておき、知り合いの幸せそうな便りを嬉しく思っていた。美智子は東京の満員電車に極度の不安を感じるような人だったので、「三十五歳までにこんな女性に!」など、エクスクラメーションマークが沢山つく光沢のある雑誌を敬遠しているところがあった。それよりも、まるで魔法の言葉が山ほど書かれているような、布で装丁されている本に囲まれていることが好きだった。そのようなわけで、<今>彼女は大きすぎない街にある図書館で働いている。上司は無理な働き方をさせる人ではないけれど、本に囲まれていると安心する美智子にとって、そこは、無限に仕事が湧き出てくるような場所にはちがいなかった。
「気がつくとそんなに時間が経っているんだ・・・。」
美智子の呑気なつぶやきが、静かな館内にそっと響いた。

 祝辞の後に「今日の夜電話するから」と追伸をそえたメールを送信して、いつものあまり冴えない表情の美智子にもどった。気づくと美智子の横に立っていた上司が、それを見計らったように、依頼中の文献伝票の束をドサッと美智子の前に置いた。

(つづく)

――この物語はフィクションであり実在の人物・場所とはまったく関係がありません――