メディアとガイドライン

簡単な事だけれど重要な事というのはあると思う。表題に関してはデュルケムを真っ先に思い浮かべますが、その延長上で考えても次の新書は具体例が多く学ぶ所が大きかったです。

新聞報道とオーストリアのウィーンの地下鉄での自殺に関する調査は広く知られているので、簡単に触れておこう。

(中略)

1984年頃から地下鉄での自殺者が急増し始めた。それはタブロイド紙が地下鉄自殺についてセンセーショナルかつ詳細な記事を連載するようになった時期と一致していた。

そこでオーストリア自殺予防学会は自殺報道のガイドラインを提示し、自殺を誘発する危険のある報道の仕方と、予防につながる報道について世に訴えた。

自殺を誘発する可能性の高い報道の仕方として、自殺の手段を非常に詳しく報ずる、自殺を過度にロマンティックに報ずる、一面に大きな見出しとともに記事を掲載する、犠牲者の写真を掲げる、直前に起きた出来事と自殺の因果関係を極端に単純化して報道することなどを挙げている。

さらに、ガイドラインは影響をより少なくするために次の点に配慮することも提言している。自殺以外の他の合理的な解決策を提示する、危機に陥ったものの自殺ではない他の方法で解決した具体例を挙げる、精神疾患の治療法や自殺予防の一般的な対策について正確な情報提供する、などである。

調査を実施したゾネックらは自殺報道についてメディアを非難しようとしてるわけでもなければ、報道を完全に中止することを求めているわけでもない。ジャーナリストの大部分は善意から自殺を報道する義務を感じているのだから、報道の持つ危険な側面について警告を発するべきだと主張したのである。

高橋祥友『自殺予防』岩波新書(1028)、2006年)

社会的な問題であれ、精神的な問題であれ適切な処方とセーフティーネット(人々のつながり)が命を守っていくだろう。メディアの本来の力というのはそういう方向にむいた方がよい。弱い人と強い人がいるのではなく、人間は弱かったり、強かったりするのだから。