ごめんねのメール

私のスケジュールミスで迷惑をかけてしまった友人に昨夜メールをおくる。暖かい返信をいただいき、ありがとうございました。お詫びに小説の続きをお見せします。書いていたんだけどタイミングを逃したのでup するかどうか迷ってたのです。

★★★★★★★★ 雛罌粟−−5.幸福−− ★★★★★★★★


 美智子を街の一画に位置づくモダンなホテルへ案内すると、ロビーで真紀とビリーは、手短にこれからの予定を確認した。結婚式は明後日で、明日は結婚式のリハーサル。その日はその後、親族を中心としたウェルカム・ディナーがある。ケータリングやドレスアップの細かい指示や当日のタイムスケジュールをもう一度今晩のうちにおさらいしておこう。真紀は今晩から美智子とこのホテルに泊まり、これからはこのホテルを中心にして、親族の送迎などを行う。予定表のようなものを抱えたビリーは、必要事項が書かれている紙を何枚か真紀に渡し、テキパキとこれからの予定を確認した。それが終わると、彼は美智子に向かって「それじゃ、ぼくは両親の家に行ってガーデンパーティーの最後の検討会をするから、お二人で独身最後のパーティーを楽しんで」とニコッと笑いかけ、急ぎ足でロビーを後にした。

 英語での会話が途切れたせいか、美智子は、幾分か疲れを感じた。フライト自体はそれほど長くはなかったが、考えてみれば、かなり長時間かけてここまで来たのだった。それに外国語が溢れている中に身を置くのはとても久しぶりだ。それを思い出すと、更に疲れが増してくる。モダンなデザインとビビットな色調で整えられたホテルの部屋へ入り荷物を置くと、美智子は真紀に話しかけた。

「ねぇ、真紀ちゃん。もし疲れていなかったら、まだ外はほのかに明るいから、街を少し散歩しようよ? 時差もあるから、散歩して気分を入れ替えて、夜休めるようにしたいんだけれど」
「あ、いいね。私にとっては御馴染みなコースになっちゃうけどいいかな?帰り際にカフェで軽食をとってホテルに帰って来ようよ」

二人は、まるで子どもにかえったような気分で、キャイキャイと騒ぎながらホテルから出るとダウンタウンの広場へ向かって歩き始めた。夏とはいえ湿度が低いためか、美智子は肌寒ささえ感じた。几帳面に区画されている町並みを歩いていると、美智子の疲れは、少しずつ、休暇中のフワフワとした楽しげな気分へと変化していった。ブリティッシュコロンビアを思い出させるシックな建物が町並みを形作り、広場を抜けると川が悠然と流れていた。夕暮れ時ということもあり、川の側では沢山の人がジョギングをしている。川端の手すりに背をもたれて、真紀は今回の国際結婚で両親を説得するまでの苦労について、美智子からすると多少誇張しているのではないかと思えるほど、その紆余曲折しながらの奮闘の一切をため息交じりに話した。美智子の周りにも国際結婚をしている人が幾人かいる。傍らでそれを見ていると、結婚までの幾多の困難さのために、むしろ二人の結婚したいという欲望が強くなるのではないかとさえ思えることがあった。だが、もちろん今、真紀が美智子に話しているように、10年、20年たって、必ずしも幸せな生活を送れなかった夫婦のことも美智子は知っていた。

「まぁ、でもさ、真紀ちゃん。日本人同士で結婚しても長い間ラブラブな夫婦もいれば、そうじゃない夫婦もいるじゃない。統計を見たわけじゃないから正確なことはわからないけれど、国際結婚だからうまくいかなかったというのは、後になってそう言われるだけじゃないのかな。今時、超えがたい壁があって恋に落ちるっていうのは、国際結婚ぐらいだろうから、そう考えると大恋愛の末の結婚なんだから幸せだと思うけど」

実際に美智子はそう思っていた。超えられない障壁を抱えた二人の恋は燃え上がるというのはトリエスタンとイズール、ロミオとジュリエットまで、恋する二人の王道だ。未だに文学少女が内面に住み着いている美智子のような人間から見れば、真紀とビリーはお手本のような恋愛結婚の道を歩んでいるように思えた。川べりからダウンタウンの方向へと歩きながら、真紀は少しの間考え、その後で、幸せかと聞かれれば、やはり今とても幸せだと思うと、屈託のない返事を美智子に返した。美智子は横目で真紀を見ながら、溜息でその言葉に返答した。

感じのよいカフェの扉を開けながら、二人は大きな声で笑っていた。幸せなんだ。