断章

夢というものは、病的な状態にあるときには、なみはずれて浮きあがるような印象と、くっきりしたあざやかさと、なみなみならぬ現実との類似を特色とする、そういうことがたびたびあるものである。ときとすると、奇怪な場面が描き出されるが、この場合、夢の状況や過程ぜんたいが、場面の内容を充実さす意味で芸術的にぴったり合った、きわめて微細な、しかも奇想天外的なデテールを持っている。それは、たとい夢を見た当人がプーシキンツルゲーネフほどの芸術家でも、うつつには考え出せないほどである。こうした夢、こうした病的な夢は、いつも長く記憶に残って、攪乱され興奮した人間のオルガニズム(組織)に、強烈な印象を与えるものである。(『罪と罰』河出書房、昭和40年、55頁)